バワの終の棲家【ルヌガンガ】4つの特別席~PINKで行く ジェフリー・バワの世界~


ジェフリー・バワの実験室と呼ばれた別荘『ルヌガンガ』。ネーミングはシンハラ語で「塩の川」という意味を持ちます。ここは、彼が40年をかけて作り上げた理想郷であり終焉間近まで棲んだ家。ジェフリー・バワの聖地のひとつでありファンにとって一度は訪れたい特別な場所です。

バワの理想郷 ルヌガンガ

スリランカの首都・コロンボから南下し約65キロに位置する海辺の街、ベントタ。金色の砂のビーチでも知られ、自然が作り出した眠れる巨人によく似た「ハンディランガラ」という岩が横たわっていて神秘的な情景を見ることができます。

その砂浜から内陸に11キロ進んだところにあるのが『ルヌガンガ』。スリランカの玄関口『バンダラナイケ国際空港』からは約2時間。ここは熱帯建築家と称されるジェフリー・バワ(以降、バワと表記)の原点にして傑作、墓標でもあります。

1960年代から1970年代にかけて、バワはベントタ周辺の開発プロジェクトに取り組んでいて『ルヌガンガ』を取り巻くようにバワ作のベントタ駅や各ホテルが点在。1泊以上して世界観に没入したいものです。

バワの生活の拠点であった「ザ・ハウス」の南側テラスは、シナモンヒルと繋がっている


バワは、デダワ湖の岬にあるシナモン農園とゴム園跡地を1949年に購入しました。面積は11.5エーカーの東京ドームよりも広い約15エーカー(約60702.8平方メートル)。スリランカで現存する最後の原始熱帯雨林という希少な土地で、ふたつの小さな丘にまたがって存在しています。

 バワが隣人を遠ざけるために丘の間に道を作り、橋をかけた使用人の部屋を作った。現在は「Gate House」という名で泊まることができる

そのため当初は、隣人が敷地内を横切ることもあったとか。バワは己の世界観を壊されることを嫌がり隣人用の道を作り、他人がルヌガンガに侵入しないようにしたというエピソードも残されています。

「熱帯建築家」と世界中の建築家やホテリアから尊敬を集め、影響を残したバワの活躍と、その才能は枚挙に暇がありません。しかし、チャールズ皇太子(現イギリス国王・チャールズ3世)が彼の大ファンであったことは、日本ではあまり知られてないかもしれません。

スリランカは1815年から1948年までイギリス領セイロンという植民地でした。その最中に生まれたバワ。イギリスは若き日に留学した地であり建築を学んだ縁の深い国。1998年のスリランカ独立50周年の祝賀会で渡錫したチャールズ皇太子のたっての願いにより『ルヌガンガ』を訪問。バワはコロンボから駆け付け、自ら買い求めたロイヤルティーでもてなしたそうです。聖地にふさわしいエピソードですね。

(左上)ガーデン内の蓮池(右上)デダワ湖に面したプール(左下)エミリオ・グレコのレプリカ像(右下)設計した建物、ホテルに合せてバワがデザインした椅子もところどころにある

『ルヌガンガ』は、バワが2003年に没した「ジェフリー・バワ財団」によって運営され宿泊することができるようになりました。そのガーデンも見所のひとつで、そこかしこに親友でもあったアーティストのラキ・セナナヤケ、ドナルド・フレンドの作品が置かれています。

さらに旅好きで収集家でもあったバワが各国で買い求めたアートが残されています。バワ自身も「最大の美しさは、葉に差し込む太陽です」と言っていたように経年経過と共に成長し、枯れてはまた芽生える木々や草花は見る度に発見を与えてくれます。


「ザ・ハウス」南側から見えるシナモンヒルの壺のすぐ脇にバワが眠っている。壺はバワ建築に欠かせないアイテムのひとつで、これは中国の明の時代のもの

「まずは、スリランカの名所でもある庭を見学してみたいという方のためにガイド付き「ルヌガンガ庭園ツアー」が毎日3度開催。

その広い敷地をめぐる「ルヌガンガ庭園ツアー」は、あっという間で名残り惜しいほど見所に溢れています。宿泊者であれば滞在中好きなだけ散策することができるのでぜひお泊りいただきたいものです。

ルヌガンガ ガーデンツアー
実施日:毎日 11:00、14:00、15:00の3回(ガイド付き)
ただし、現地の状況により中止となる場合もあります。
料金:1 人 税別15ドル (外国人料金)/7歳未満のお子さまは無料 予約:不要

ホテルとしてのルヌガンガ 4つの特別席

以前は完全非公開であった『ルヌガンガ』。バワが居た場所に「行ってみたい」「泊まりたい」というファンの夢を叶えたのがバワの親友たちによって創設されたジェフリー・バワ財団。ホテルとしても運営されています。

 バワの生きた時代を体感できるサンセットタイム。ルヌガンガを守るように立つ像はおそらくギリシャ神話のヘルメスであるという



宿泊者にはアフタヌーンティー、テラスにてのドリンクサービス、朝食を提供。なかでも湖に面したテラスでいただくドリンクサービスが好評。17:00~18:00の間、無料のジンとビール、ソフトドリンクを楽しめます。

これは、黄昏時、湖を見ながらジンを嗜んだバワのエピソードを再現した洒落た演出。振舞われるジンには、カレーリーフやレモングラス、パンダンの葉とクローブといったスリランカらしいスパイスやハーブを漬け込んだ特製です。バワと一緒にグラスを傾けている気分へと誘ってくれます。

客室は、現在11室(2025年現在)。生誕100周年記念に公開された「No. 5」ことエナ・デ・シルバ夫妻の邸宅や2023年から宿泊できるようになったバワの寝室のThe Geoffrey Bawa Suiteといずれも決めがたい客室です。


Cinnamon Hill 1
90 年代に建てられたプールサイドに近い隠れ家。現在の『カンダラマ』の建築の際に試作した建物

・Cinnamon Hill 2
バワが最後に加えた作品となる客室で、現在の『ジェットウィング ライトハウス』の建築の際に試作した建物

・Glass House
ガラス張りで周囲の景色を眺めることができるユニークな客室

・Gate House
シナモンヒルの麓にある丘と丘を結ぶ橋のある客室

Gallery Studio
広々としたスイートルーム。バワが収集していたアートを集めたギャラリーだった場所

Main House Studio
バワの寝室の向かい側に位置し、且つて友人たちを泊めたゲストルーム

・The Geoffrey Bawa Suite
2023年より発売したバワの自室。バスルームはプライベートなジャグジースペースに繋がる

・No. 5 Ena’s Bedroom
コロンボから移築し再建したエナ・デ・シルバ夫妻の旧宅のエナのベッドルーム

・No. 5 Guest Suite
コロンボから移築し再建したエナ・デ・シルバ夫妻の旧宅のゲストルーム

No. 5 Master Suite
コロンボから移築し再建したエナ・デ・シルバ夫妻の1階にあるベッドルーム

・No. 5 – Entire Villa
室内と野外がシームレスに繋がったバワ建築らしい客室

さて、ジンを飲めるテラスがひとつめのバワの特別席だとしたら、次なる席は、ホテルのメイン棟となる「ザ・ハウス」のダイニング。毎晩、湖を望む野外のテーブルでディナーをいただきつつ、友人や仕事仲間と語らった場所です。

(左)「ザ・ハウス」のダイニングは朝昼晩と食事を提供(右)ブラックペッパービーフカレー宿泊は1泊朝食付きで提供され、チェックイン時に提供時間を選ぶことができる


バワが居た時代にここに使えていたシェフが同じメニューを提供。3食とアフタヌーンティー、ドリンクを楽しむことができます。

また、朝ごはんをいただくテーブルは別に設けられていました。それが「ザ・ハウス」の入口付近にある席。

バワが好んで朝食を取ったシナモンヒルが望める席

朝ごはんは決まって南側のテラスでがバワスタイル。もちろん、スクランブルエッグもバワが好んだ料理のひとつです。朝の光に照らされ、彼はこの席でなにを想い、なにを描いて食事をしたのでしょうか。もしかしたら、自分が去ったあとの『ルヌガンガ』の風景も見えていたのかもしれません。

4つめの特別席は、ガーデンの中にあります。

バワがランチを食したテーブル。特製のドラが設置されていて用がある時は、これを叩いて使用人を呼んだ。

ランチは鬱蒼とした緑のなかで。「ルヌガンガ庭園ツアー」でも立ち寄る、この席。時にひとりで、友人や仕事仲間と、そして恋人とバワは、昼食を楽しみました。4つの特別席のなかで、もっともプラーベートな空間で、用があるときはドラを叩いて使用人を呼び寄せていたといいます。

これらの特別席で宿泊者が食事を楽しむことが可能です。限られた席のため、ご予約の際や宿泊時にあらかじめ指定をしておくことをお薦めします。PINKで『ルヌガンガ』をご予約いただいたお客様ならば、お手配も可能です。お気軽にお問い合わせください。

施設のあちらこちらにバワの息遣いを感じることができる

長い年月を費やしてジェフリー・バワが築いた『ルヌガンガ』。1990年代には転倒や病により歩くことが困難でした。1997年12月30日、最後の仕事となる現地調査をした際に軽い脳卒中の発作を起こしたのもこの場所。よく月の1998年1月、古い友人のひとりドクター・ラッフェルが訪問し、バワにリラックスして過ごすことを勧めつつ、遺言書を作成するように助言しました。

それにより後世、『ルヌガンガ』を引き継ぎ、世に伝えるためにジェフリー・バワ財団(Geoffrey Bawa Trust)が設立され現在に至ります。2003年5月27日に亡くなる1週間前までバワはここで過ごし(コロンボにて死去)、死後、遺言通りに遺骨の一部が湖に散骨されました。

それから22年。「熱帯建築家」と呼ばれ、トロピカル・モダニズムの第一人者であった建築家の歴史は『ルヌガンガ』のなかに今も克明に綴られています。

撮影・文:泉美 咲月(Satsuki Izumi) 現地取材を経て執筆

参考文献:「ジェフリー・バワの全仕事」(著者 ディヴィッド・ロブソン/日本語翻訳高橋正明/グラフィック社刊)、「IN SEARCH OF BAWA Master Architect of Sri Lanka」(著者ディヴィッド・ロブソン/TALISMAN 刊)、「GEOFFREY MANNING BAWA DECOLONIZING ARCHITECTURE」(著者Dr. シャンティ・ジャヤワルデネ)


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ルヌガンガに宿泊するツアーコース
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スリランカにある唯一無二のホテル達を巡る~バワの面影を探す旅8日間①/カンダラマ+デ・サラムハウス+ルヌガンガ各2泊
スリランカにある唯一無二のホテル達を巡る~バワの面影を探す旅8日間②/カンダラマ+Number11+ルヌガンガ+アフンガラ+ライトハウス泊


ルヌガンガ<Lunuganga>

住所:Lunuganga Country Estate, Dedduwa, Bentota, Sri Lanka
問い合わせ先:03-6264-0740


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