先日自宅の近所のスーパーの前で突然声をかけれれた。
ふりむけば、近所の居酒屋のおばさん。
このお店は、ビルっぽい建物に挟まれながら
あちこちほころんでいる古い木造2階建ての日本家屋だ。
営業しているときは大きな暖簾に赤ちょうちんが灯っている。
近頃は中々伺えていないのだが、僕はこのお店が大好きだ。
この店に行く度に、心のもやもやが晴れ渡るすがすがしい気持ちになるからだ。
* * *
おばさんは、たった一人で、8坪ほどのお店を切り盛りしている。
通りに面した店で、店の前を人が通り過ぎただけで
「いらっしゃーい!」と厨房から かなりの大声のフライング声掛けをする。
おそらくこの店で知り合ったと思われる
バラバラな雰囲気のおじさんや若者がいつも常連で集まっている。
時々夜、友達と顔を出すと、おばさんはいつも大歓迎してくれる。
とにかく声が大きく、いつも明るい。
そして僕の男友達のことが、大のお気に入りで
いつも「イケメンが来た!」と
他の人には出さない裏メニューをたっぷり出してくれる。
以前、ランチの時に行って、僕たちのテーブルだけ大きなお造りが出てきて、
他のお客様からクレームが出たことがあったくらいだ。
僕等が行くと、いつも横に座って話をする。
半分は下ネタ。そして半分は仕事と人生の話。
出してくれる惣菜は、見事に美味しい。
それもそのはず、材料はかなり厳選されてる。
お米は店の裏で脱穀から行っているそうだし、
前に牛肉とピーマンの炒め物を出してくれたが、余りに美味しいので、
聞けば 「今半」の肉だった。
値段はほぼ いい値のような気がする。
少なくとも僕はメニューを見たことがないし、高くない。
おばさん曰く、とにかく美味しいものを食べてほしい、
その気持ちが、まず一番、儲けはその次、とか。
そして、何気ない器たち。
ふと見るとマイセンやウエッジウッドだったりする。
この店は、「ホンモノだけの店」なんだと、感じる。
* * *
昨今はインターネット上で、いくらでも美しく商品を見せることができる。
僕自身個人旅行で、八丈島に行ったとき
「犬と一緒に泊まれる宿」で散々な目にあったことがある。
半ば廃屋の宿で、夕食にフライドチキンが出てきたとき、切れそうになった。
信じたほうが馬鹿なのだろうか?
* * *
僕はいつもそのおばさんの店を通るたび、
いつまでもその赤ちょうちんが明るく灯り
威勢のいい おばさんの声を思い出し、
「サービスってなんだろう」「仕事ってなんだろう」と自問自答する。
人間にはこういう「真心のお店」が必要だと思っている。
おばさん、体に気を付けて!と祈るばかりだ。