女優ってすごいなぁ~舞台「猟銃」

パルコ劇場で中谷美紀の舞台「猟銃」を観た。
1人の男性への3人の女性、不倫相手・男性自身の妻・不倫相手の女性の娘の手紙をベースにそれぞれの想いが綴られる、井上靖の短編小説だ。
この舞台、二人芝居ではあるものの、男性役は、最初から最後まで無言かつ舞台の背後で身体の表現のみ、という斬新な演出。結果的に中谷美紀による一人三役の一人芝居であった。

中谷美紀は、眼鏡をかけた生真面目な少女から、真っ赤なドレスを着た気性の激しい不倫相手の女、そして真っ白な着物姿の清楚で知的な、しかし奥底に女性の業を持った妻に、舞台から一度も消える事なく、舞台の上で 変わる。一度たりとも舞台袖に履けないし、暗転も無し。舞台上で服を脱ぎ、変わっていく姿そのものが、女性の中の様々な姿でもあり、美しくか弱く、同時に強くて恐ろしく変わる様な、脱皮に見えてくる。

驚くべきは、約100分の舞台中、中谷美紀はほぼ最初から最後まで、セリフを喋り続ける。しかも声や喋り方も3人違う。
あの小さな頭の中のどこにアレだけの膨大な台詞が詰まっているのだろう?そして間違えずになんで出てくるんだろう?
妻の時など、肌襦袢から帯留めを締めるところまで、延々とセリフを言いながら、しかも観客席を見ながら、一度も着物を見る事なく、美しく着付ける。
びっくりしてしまった。
正直、舞台の内容より、演者としての中谷美紀の素晴らしさとその気迫に驚き、本当に凄いと思ってしまった。
この舞台で彼女は数々の賞を受賞しているらしいが、十分納得ができる。

また、シンプルな舞台装飾ながら、雨が降ったり、火が灯ったり、かと思えば機械音と共に水たまりが一面ガラス玉の床に徐々に変わってたり、パルコ劇場って結構凄いんたな、と感心した。

余談だが、去年から今年にかけて都内の劇場が相次いで閉館しているらしい。
聞けばこの劇場も今年一度閉館してしまうらしい。若い頃朗読舞台のシリーズ「ラブレター」などで随分お世話になったので、少し寂しい。

とにかく舞台は、ナマで感じる演者の意気込みとか気迫とか、裏に見え隠れする緊張感や努力などが、同じ空間だからか、何だか色々伝わって来るのだ。

素晴らしい舞台を観れて、
良かった!

PAROCO劇場「猟銃」