とても嫌いで、とても好きなもの- 舞台「焼肉ドラゴン」

鄭 義信 演出の舞台「焼肉ドラゴン」を観た。

万国博覧会が催された1970(昭和45)年の大阪が舞台。
飛行機が轟音を立てて頭上を行き過ぎるバラック街。
本当は血の繋がっていないのにお互いを思い合う姉妹、大好きな人が目の前にいるのに大好きと言えない人、いけないとわかりつつ妻帯者と関係を持つ人、家族でもないけれどいつも何故か居る人々‥そんな人々が、騒がしく、楽しく、時に悲しく日々を過ごす焼肉店の物語。
国と国の狭間に産み落とされた「在日外国人」の家族が主人公だ。
やがて彼らが万博に浮かれる60年代の国や政治に翻弄され、崩壊・離散していく姿が演じられている。

どちらの国でも染まることが出来ない、鬱屈した環境の中で、人生を謳歌している彼ら。
そこには、ヒトがいて、何より家族がいる。
この舞台は「家族とはなんだ?」ということを考えさせてくれる。
簡単な話も、家族だとなんだかこんがらかって、うまく進まないことがある。
何でもない事なのに、身内だとすごく腹が立ったり、悲しくなったり、嬉しかったりする。
私にとっても家族とは「とても嫌いで、とても好きなもの」だ。

いずれにしろこんな「家族」の姿が、舞台やドラマでしか擬似体験出来ない時代が来つつあるかもしれない、と思いながら、
とにかく気迫いっぱいの舞台を楽しんだ。
観終わったらクタクタなくらい迫力のある舞台なのだ。

この作品は日本の戦後、その大きな転換期となった1950、60、70年代それぞれの影の戦後史を描いた三部作のひとつ。

機会があれば是非お勧めしたい。
舞台「焼肉ドラゴン」